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『誇大妄想展開領域』 黒のカラーケントに メタリック系ボールペン

誇大妄想展開領域

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最後の静者 (前編)

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はじめに   

 この記事の語り手は人間ではありません。また、その舞台も地球ではなく、別星系にある (想像上の) 別惑星です。
 まったく予備知識なしに読み、どんな存在の主観で描かれているのか想像してみる、という楽しみ方もあるでしょうし 〔その場合、記事のカテゴリーがヒントになるはずです〕、その主観になりきった上で自分が何者であるのかを直感的に理解する、といった観想体験を試してみるのもいいでしょう。
 とはいえ、末尾の 注釈 を先に一読しておいたほうが、より理解しやすいことは言うまでもありません。


 どちらを選択するかは、あなた次第……。


 なお、舞台となっている惑星そのものの詳細設定、およびそこに棲息している知的生命体については、次回 後編にて取り上げる予定です。


 どうぞ最後まで存分にお楽しみ下さい。

    筆者






最後の静者 ~ 前編



 大いなる糧が降り注ぎだす時分だ。
 かなりくなってきた前方の空から、聖なる御方が立ち現われる……。


 今し、地の果てから、ご出現 !
 その完璧なる形……いかなる突起も持たず僅かな歪みもない御姿を、すぐさま上方へと浮き上がらせる。
 大いなる糧の群れがほぼ真横からに射してくる。全身の小粒たちに歓喜と感謝の震えが走る。
 されど糧を戴くことが出来るのは今しばらく後のこと……。聖なる御方を仰ぎ覚えんがために、ほとんどの受け手たちは上半身に上向いて生えているからだ。御姿の浮び上がりが未だ充分でない間、妾は土台に食い込ませた無数の足指で甘みを探り、来るべき交わりに備えて潤いをたっぷり吸い上げておく……。


 聖なる御方の動きはさすがに素早い。それでも妾は一枚一枚の受け手に成りきって、精一杯の力でもってそれぞれの分体を差し伸べる。最良の態勢で広げられたたちは、御姿の巡りに従っていっせいにいでいく。その体感はまるで踊りのよう……別々であるのに一体となった流れのようだ。
 ああ、糧の旨みがますます濃くなってきた。すべての受け手に注がれる豊穣なる聖餐の妙なる味……それが全身に浸透する。


 聖なる御方が真上に至るより前に、大いなる糧と交わり ・変容した力が妾の体を覚醒させる。最大限に活気づいた胴や腕は、半ば自ずから運動し始める。より高く、より広く……もっとたくさん糧を授けられるように……。


 早くも聖なる御方は頂点を極め、そのまま下りの巡りに移行する。後方の彼方へと転がっていく半ば程の時までが、妾にとっては厳かなる晴れ間……。外へ外へと膨らんでいく体を感じ、糧ある場を求めてぐんぐん伸びゆく腕を覚え、随所に生えてきた幾つもの小さな受け手を捉えては、新たに生まれ加わった小粒たちの唱いを聴く……。
 そのひと時を過ぎたならば、次第に半身の力を緩めていく。糧を授けられなくなった前方の半身は、一つ一つの小粒ごとに睡り就く。ざわめいていた無数の唱いが静まるにつれ、それまで掻き消されていた微かな吐息がそれに取って代わる。


 後方の地の果てに聖なる御方が沈んでいく。
 蓄えられていた温みが徐々に抜け出していく。
 妾を満たしていた力も脚の中へと落ちていく。
 それは土台に包み込まれ、やがて固められる。
 今し、土台とひとつになる……。


 上半身は小粒たちに委ね、妾はひたすら中で待つ…………。




 大いなる糧が降り注ぎだす時分だ。
 かなり甘くなってきた前方の空から、聖なる御方が立ち現われる……。




 大いなる糧と交わり ・変容した力が妾の体を覚醒させていく。最大限に活気づいた胴や腕は、半ば自ずから運動を始める。より高く、より広く……もっとたくさん、もっと満遍なく糧を授けられるように……。
 もはや今では、さほど焦って動くには及ばぬのだけれど………。


 さほど遠くない昔、妾は多くの同胞に囲まれていた。腕を伸ばせば隣の受け手たちが直に触れ、こちらの者らと重なり合い、やがて両者は押すも引くも叶わなくなったものだ。より多くの糧を授からんためには、胴を動かして高くなるしかなかった。
 みなが皆、こぞって背伸びをした。一節でも長く腕を上げ、一ひらでも多くの受け手を表に出そうと、必死の勢いで身を動かしたものだった……。
 とはいえ、同胞どうしの競い合いは歓喜をもって執り行なわれていた。いずれが覇を唱えようとも、一者の漏れなく以前よりも栄え、世界全体が力を増すことになるからだ。聖なる御方の面もとで繰り返される絶え間なき背比べ……それは、永遠に続くはずの祭であった………。




 されど今、妾はただ独りここに立つ。


 あれほど栄えていた世界から、同胞がひとり消え、ふたり消えていったのは、土台が絶え間なく震えるようになってからのこと……。それ以前は固く結ばれていた土台の随所に口が開き、隠れ去る間際の聖なる御方の面にも紛う熱流が、滔々と溢れ出てきたのだった。
 されど熱流からは糧などまるで放たれはせず、ただただが立ち上ってくるばかり……。それだけならまだしも、凄まじい勢いで押し寄せては激しく脚に絡みつき、同胞たちの身を焦がして横たわらせていった。多くの者がそうやって絶たれていったのだ……。


 妾のみが未だ熱流を免れているは奇異なること……。同胞たちの中でも殊に身の硬い種族の溜り場に生まれ付いたため、かれらの屍が具合よく熱流を阻んでくれたということもあろう。また妾の立つ土台の上方に突起があり、それが幾度となく妾を守ってくれたもした……。
 されど、いずれその時は巡ってこよう。妾の身にはその最期の型が浸透していきつつある。小粒たちは既に小刻みな舞を始めている。


 滅絶の恐れなどあろうはずもない。妾はもう充分に佇んできた。聖なる糧を全身に浴びて、土台の温みを半身に浸しながら、幾百万もの巡りをこの老体に刻み込んできた。そろそろ土台に身を沈める頃合ではなかろうか………。
 それに今……


 妾の内には、かつてこの世界に生きた全ての同胞が、共にある。




 大いなる糧が降り注ぎだす時分だ。
 かなり甘くなってきた前方の空から、聖なる御方が立ち現われてくる……。


 絶え間なき震えが土台を渡る。これは土台そのものの鳴動だ。普段のものとは違っている。
 どこかさほど深くない場所で熱流の大河が暴れている。足指の先々がその顫動を捉え、今にも襲ってくるかも知れぬ高熱から身を退けようと努めている。かなり近い……。


 土台の下をときどき妙なものが移ろうことがある。熱流とは異なり、大昔からそこに潜んでいる流れだ。熱流ほど素早くはない。されど妾たちが為す運動くらいの速さはある。
 全同胞を身に帯びた妾にはと解る   誰ひとりその妙な潜流と直に接したことはないということが……。それはかつて一度も浮上したことがないのだ。おそらく遙か太古の昔から、一度として……。


 不穏なる大河の暴れは、潜流の動向と明らかに連なっている。妾のあらゆる小粒の舞が、その行く末を示しだした。最期の型はもう間近なところに在る。


 土台そのものの鳴動が高まってきた。最奥から突き上げられるような、忙しなき縦揺れ……。


 潜流が熱流の大河と直に触れた。それはこれまでになく強い身震いを発散させ、土台全体を持ち上げた。そして……


 いま、それが、まっすぐ妾の方へと、昇ってくる………。






* 語り手 (というか連想の主体) は、別惑星上に棲息する光合成系の生命体。形態 ・生態ともに地球産木本植物……つまり樹木にほぼ相応し、無数の葉緑体を配した受光細胞集団群 〔葉むら〕 を広く上方に展開させる。もっとも、地殻変動が激しく ・火山活動が活発なこの惑星の空はいつでも霞がちなので、少しでも多く陽光を受けようと、主要植物たちは柔軟に旋回する葉柄を発達させてきた。つまり、全ての葉がヒマワリの花のごとく太陽の動きを追うのである。
 上記の点を除けば、地球上で目にすることのできる照葉樹と大差はない。その葉が極めて小振りである代りに数が夥しく、それぞれヤツデ風の切れ込み 〔掌状中裂 〕 を縁に持っているという点で、その全形が我われ地球人にとってはやや異観かもしれない、といった程度だろう。むろん、大地に根を張るため移動できない、という点もまた地球産植物と同様……。
 ただし注意を要するのは、この連想があくまで植物の主観時間で描かれているという前提だ。かれら植物たち、特に樹木たちが感じている時間は、われわれ人間の主観時間よりも遙かにゆっくりしたものである。全般的に言って生物の時間   さらには、意識を有するあらゆる存在の主観時間   速度 は、その身体サイズが大きくなるにつれて遅くなる 〔筆者HP内 「神話の断片」ページ 断片 007参照〕。つまり、同じ1時間 〔60分〕 という時の流れを、例えば樹齢 2500年の大樹ならば、われわれ人間にとっての1分程にしか感じないということだ。そのため、かれらにとって昼と夜は、それぞれ12分くらいの長さで忙しなく入れ替わっていくのである。
 もうひとつ、筆者の妄想を述べるならば、植物という存在は、見た目の個体として抱いている一 全体意識だけでなく、個々の枝や無数の葉などといった身体部位意識、さらには各構成細胞の微小意識群の間を、柔軟自在に切替え知覚することができるのではないか、ということだ。部位 〔器官〕 や細胞ともなればそのサイズが小さいから、当然その主観時間も早く流れているわけで、身の周りの状況を我々同様に、あるいはもっと克明に知覚することができるだろう。……当作品はこの設定のもとに描写されている。
 読み慣れない語り口で少々むずかしいかと思われるが、その奇妙な同一化感覚をも含め 本文 を楽しんでいただけたならば幸いである。



    2008. 12. 13 続


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Appendix

Minr Kamti / 亀谷 稔

Minr Kamti / 亀谷 稔

1961年生まれ。
武蔵野美大卒。
建築プレゼンテーション・調理・知的障害者たちの陶芸制作活動補助、といった職を経た後に、2006年7月より創作活動に専念している微細画家 。2007年1月、銀座 - あかね画廊にて初個展。
今現在('08年4月)の描法は、かつて伐採予定地などで行なっていた舞踏を応用した自動筆記法である。
   著書 『全一の展開
         末端の必然』

             奥付より

* オフィシャルサイトにて本の内容をご紹介しております。購入のご決断をされる前に ぜひこちらをどうぞ……。

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