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『誇大妄想展開領域』 黒のカラーケントに メタリック系ボールペン

誇大妄想展開領域

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神保町の夜~霜月'08

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    広すぎないし窮屈じゃない……いい店ですね、ここ。
    そうでしょう。……それと、靖国通りのこっち側は大手の出版社が多いから……集英社とか小学館とか、それに岩波とかね……あっち側にある飲み屋と違って、うちみたいに小さな会社の社員 ・編集者と鉢合せすることがない……。気が楽なんだよね。
    同業者と会いたくないんですか?
    弱小出版社どうし、境遇が似たようなものだから、くだらない内輪話や愚痴を聞かされるのが落ちなんだよね。あっち側では、とてもじゃないけど落ち着いて飲めないんだ。
    大手の社員にもお知合いはいるんでしょ?
    もちろんいるけど、関係がよりフォーマルだからね……お互いに一線を越えない……。たとえ顔を合わせても、せいぜい会釈をかわすくらいさ。


    あっ、M さんは何にします?
    僕は中生……。
    じゃ、とりあえず中生ふたつ……。




    ここへの移動中に話してた委託仕事の啓蒙書だけど……。
    ええと、新聞広告に350万かけたとか云う……。
    そう。……その本の著者はある資産家の末息子で、以前も別の出版社から画集を出したことがあるんだよ。
    画集、ですか……啓蒙書を書くような人が……?
    本人によれば、本当は絵が専門なんだそうだ。
    へえ。……で、どんな画風なんです?
    宇宙の真理を描いた、とかいう極彩色の水彩で、安っぽい青をバックにいろんな色の光がれてるような……まあ、はっきり言ってへたくそな絵なんだけどね……それでも、3万部 刷ったと話してた。もちろん自費で、だよ。
    自費で3万は凄いですね。……で、売れたんですか、その画集?
    さあ、けっこう売れたとは言ってたけど、数を訊いたら話をはぐらかしたから、芳しくなかったんだろうね。だから今度は啓蒙書で、ということだと思うよ。
    今回は何部だすんです?
    10万。
    げっ、10万部……? そのうえ新聞広告まで……。
    親が大金持ちだからね、いくら金かけようと痛くないんでしょう。……まあ、うちも自腹を切るわけじゃないから、べつに止めはしなかったけど……。
    新聞広告って効果あるんですか?
    まあ、それなりに、にはね。なんせ全国紙だから……。活字離れの著しい世相とはいえ、新聞をとってる人はいまだ不思議と多いからね、雑誌に広告のせるよりは遙かに人の目に留まる公算は高いでしょう……買ってくれる ・くれないは別にしても……。その点、宅配という日本独特の新聞供給シルテムは、出版業界全体の惨憺たる現状の直中にあって、数少ない救いのひとつだろうね。朝おきたら朝刊が届いてるのが当り前、っていうのは、慣習というよりほとんど文化だと思うよ。
    そんなもんですかね……? ぼく自身は、新聞よんでもロクなこと書いてないから、もう取らなくなって十何年になりますけど……。
    君は、まあ、浮世離れしたところがあるから……。大概の人は……僕も含めて、だけど……世間でいま起こってる出来事を知るだけは知っておかなければ不安だ、って感覚があるんだよね。だから、どうせウンザリするようなことしか書いてないだろう、って頭では解っていても、ついつい隅々にまで目を通してしまう……。一種の強迫観念なんだろうね。
    強迫観念、ですか……。
    そう。……あるいは、条件付け、かな……次の新聞が届く前に全部よんでおくというのが……。そうだ、料理たのまなけりゃね。何にする?
    何が美味いんですか?
    寒くなってきたから、鍋なんか、どう? ここのカレー鍋、かなりイケるよ。
    いいですね、それ。……あっ、これ食ってみたい。 「と野菜のドクターペッパー煮」 ってやつ……食べたことあります?
    いや、まだないな。
    M さん、ドクターペッペー、大丈夫ですか?
    うん、まあ、飲んだことはあるけど……。
    あれ、子供の頃に初めて飲んだときは、なんか薬みたいでマズいって感じたんですけど、高校時代にまた試しに飲んでみたら、もうヤミツキになりました。……くせのある食べ物や飲み物って、いったん好きになるとハマりますね。紅茶でいえば、アールグレーなんか、そうです。
    ああ、そんなメニュー、たしかあったよ。……ほら、これ……。
     「アサリとキノコのアールグレー風味」 か……。
    一度だけ食った憶えがあるけど、美味かったと思うよ……。これ、いく?
    ええ。
    じゃあ、それと、サラダ風のものをひとつ……。これなんか、どう?
    ええ、いいですよ。
    すみませーん。オーダーお願いします。




    今回お渡しした校正分ですけど、アカが多くて、どうもすみません。
    いえいえ、あれでもまだ少ないほうだよ……全てのページに直しが入ってるわけじゃないでしょ。ひどいのになると、第3稿ゲラでも全ページが真っ赤になって返ってくるんだから……。それにね、せっかく本にして出すからには、自分で納得できるところまでやってほしいんだ。決して妥協してほしくない。その点は安心してください。
    どうもありがとうございます。そう言っていただけると………。
    確かにうちは小さな出版社だけど、自社が携わった本が売れるように出来るだけのことはやってます。それは、たとえ自費であろうと変わらない……。とくに君の作品の場合は……まあ、僕個人は評価してるけど、なんせ、全く一般向けじゃないからね……装幀や構成も含めて、そうとう完成度の高い仕上がりにしなければ、まず本屋で手に取ってもらえない。だから、表紙カバーはもちろんだけど、ほかにも例えば、さっき提案した各章扉の絵……それを見栄えよく描いてほしいんだ。
    見栄えよく、って具体的にどういうことでしょう……? 自分の画風そのものは変えられないと思うんですけど……。
    べつに読者に迎合する必要はないんだよ。ただ、読者のことをきちんと意識してほしい、っていうこと。その点を押さえているか ・いないかで、最終的な出来映えは大きく違ってくる……それに、受け手の反応もね。
    読者のことを意識する………。
    そう。けっこう掴むのがむずかしい、なかなか微妙な感覚だけどね。……こう言ったら失礼かもしれないけど、君のようなタイプの絵描き……つまり、アウトサイダー アートっぽい絵を描く画家にとっては、なおさら……。
    ぜんぜん失礼じゃないですよ。ぼくにしてみれば、むしろ褒め言葉です。それに、いちおう社会に適応してはいますけど、自分では半ば自閉圏にいると思ってますから……。
    でも、こうやって普通に人と話せるわけじゃない。
    それは、そうですけど……。


    話が変わりますけど、M さんは美術のこともお詳しいようですね。
    まあ、美術そのものではないんだけど、学生時代、マンガ家になろうと本気で思ってたからね、絵画のこともそこそこには……。細かいこと言えば、漫画ではなくて、劇画なんだけど……。
    実際に描かれてたんですか?
    うん、描いてたよ。
    どんな作品を、です?
    うーん、そうだな……有名どころで言ったら、白土三平から最も強い影響を受けてた。
    そうですか……。あまり読んだことないんですけど……。
    マンガそのものを?
    いえ、白土三平を、です。……マンガはけっこう好きですよ、この年になっても……。何でもかんでも、ってわけじゃないですけど……。
    例えば?
    そうですね……三十歳すぎてから読んだもので挙げれば、漫画 『風の谷のナウシカ』 とか、萩尾望都のSF長編だとか、士郎正宗の近未来もの、とか……あと、比較的あたらしい作品で、最新巻が出るたびに買ってたのが、『デビルマンレディー』 ですね。
    永井 豪か……。『デビルマン』 の続編?
    ええ、そうです……間が25年近く空いてますけど……。そもそも 『デビルマン』 は、子供の頃 リアルタイムで読んでたもので、ほんとうに決定的な影響を受けましたね……ぼくの場合はマンガ描いてたわけじゃないですから、思想的に、というか、世界観として、ということですけど……。
    確かにあの作品は凄いよね。……どこかで読んだ憶えがあるんだけど、ダンテ 『神曲』 の 「地獄篇」 からインスピレーションを受けた、とか……。
    ええ、中学生の頃に見た挿絵……ウィリアム - ブレイクだったか、ギュスターヴ - ドレだったか、忘れてしまいましたが……氷漬けのサタンが大元らしいですね。……で、およそ四半世紀後の続編では、ダンテの生れ変わりが登場して、実際に地獄を遍歴するんです。
    へぇー、かなりイッテるね、それは。
    おまけにそのダンテは地獄の最下層で悪魔に喰われて……設定ではサタンじゃなくて、その配下であり分身の、ゼノンっていう魔王なんですけど、そいつに取り込まれてしまうんです。……現世に肉体化するために生身の人間を欲したんですが、その変態の過程で、魔王の眉間からダンテの顔がボコッと出てくる……。
    ほとんど神話の域に達してるなぁ。
    そう、正に神話ですね。ラストなんか、完全に黙示録です。
    君は根っから壮大な物語に惹かれるなんだな……。いまの顔、鏡で見せてやりたいよ。目がらんらんと輝いてる……。
    そうですか………?




    君、ずいぶん強いんだね。
    そういうM さんだって、そうとう飲んでるのに、全ぜん顔に出てませんよ。
    まあ、そういう体質だ、っていうだけの話だよ。そもそも赤くなる ・ならないは、身体のアルコール分解能力とはあまり関係がないらしい。
    それ、どういうことです?
    酒を飲んだときに交感神経が刺激される人は赤くなる……副交感神経が刺激される人は青くなる、つまり顔に出ない、っていうことらしいんだ。
    じゃあ、黄色くなる人は……?
    黄色?!
    ふだんは無口なのに、酔うと黄色い声を張り上げて喋りだすような人……。
    ああ、見た目ほどにはシラフじゃないんだ……。


    ところで、さっき話を聞いてて思い出してたんだけど、諸星大二郎って漫画家しってる?
    ええ、一冊だけ読みました。何年か前に 『奇談』 って映画が封切られたときに、その原作の 『生命の木』 が入ってる短編集を……。
    長編もぜひ読んでみるといいよ。君だったら絶対にハマる。
    そうですか……?
    きみ好みの壮大な神話的作品群でね……まあ、一口に神話といっても、永井作品のような西洋ゴシック風物語世界ではなくて、“東洋考古学的観想領域”、みたいな作風だけど……。日本を含めた東アジアの神話 ・伝承を大胆 ・自由に結びつけて、あらすじだけ聞くと荒唐無稽に思えるけども、作品を完読すると圧倒的な説得力を感じるような……そうだな、大統一 創世神話、ってところかな………。
    M さん、いま 目がらんらんと輝いてますよ。
    そう……? まあ、好きだからね。そもそも僕が東洋古代史オタクになっていったのは、諸星作品群の影響 大なんだ。最初に務めた○○社……いちばん熱心に読んでたマンガ週刊誌を出してたから入ったんだけど……そこで不本意にも歴史書のほうへ回されちゃったときに……おまえ、白土三平すきだったら歴史は得意だろう、ってね……
    あれ、あれ……。
    ……ある先輩のデスクの上に、分厚い学術書といっしょにマンガ本が何冊も並んでるわけ。それが全部、諸星大二郎……。
    その先輩って、もしかしたら……?
    いまのうちの社長。
    ああ、やっぱり……。
    話が少し脱線してきたな。作品そのものを紹介しないとね……。僕がいちばん好きなのは、パプア・ニューギニアの伝承神話を日本のイザナギ ・イザナミ神話に結びつけた 『マッドメン』 っていう作品なんだけど、いま作ってる君の著書に絡めて薦めるなら、やっぱり 『暗黒神話』 だろうね。こちらはヤマトタケルの生れ変わりの話で、現代に生きるっていう少年が主人公なんだけど……かれは、というかそれは、別の時空に同時に存在するアートマンの三次元的顕れなんだよ。
    へぇー、それはすっごく興味深いですね。……ぼく自身は “アートマン” について何ひとつ語ってないし、これまで深く考えたこともないんですけど、今のお話を聞いて、直感的に似かよった世界観を感じます。
    符合してるところはそれだけじゃなくてね、君の作品の……第何章だったか忘れたけど、太陽の赤色巨星化について書かれた箇所があったじゃない。
    第5章ですね……ええ、あります。
    『暗黒神話』 で語られる究極のテーマはね、弥勒菩薩衆生救済なんだ。
    弥勒菩薩って、五十六億七千万年後に顕れるという……?
    そう。……で、諸星はそれを太陽の赤色巨星化に結びつけてるわけ。
    ああ、やっぱりそう考える人、いたんですね……。年代が完全に一致してるじゃないですか、たまたまぼくが知らないだけで、そういう指摘はもう何人もの人が世に出してるだろう、とは思ってたんです。……よかったぁ、そのことに触れなくて……。あの文体だと如何にも、われ数千年来の謎を解きし、みたいな感じになっちゃってたでしょうから……。
    でも君のスタンスは地上生命体や地球をも相対化してて、赤色巨星になるのは太陽自身の都合だ、って言ってるわけでしょう……? そして、太陽はそれでおしまいじゃないんだ、とも……。
    ええ、そう断言してます。全ての物質存在はそれ相応の意識を持ってる、っていう直観を前提にすると、どうしてもそうならざるを得なかったんですよ。
    そこが君の浮世離れ、っていうか、人間離れしたところなんだな。
    でもぼくらは、自分たちが人間だから人間のことを重要に考えるわけじゃないですか……それ以上でもそれ以下でもないと思うんですよ。“生きとし生きるもの” どころか、全ての世界内存在が主観的には同等だ、って……。
    初めて読ませてもらったとき、その視点がすごく新鮮だった……。生命賛歌や動物擁護を説く人はいくらでもいるけど、素粒子から絶大ブラックホールまで、ありとあらゆる存在の主観に立って語れる人って、おそらく埴谷雄高くらいじゃない?
    あっ、どうもありがとうございます。
    だからね、この作品はぜひとも世に残すべきものだ、って感じたんだ。………はっきり言って、売れる本じゃない。あまりにもハードルが高いから、本当にキビシイよ。だけどね、形にしておきさえすれば、いつかきっとボディーブローのようにじわじわと効いてくる……少なくとも、その可能性を秘めてる作品だと思うんだよ。……入稿まであと4ヶ月、お互い納得できるものを作っていきましょう。
    ええ。どうか、よろしくお願いします。


    ああ、もうこんな時間だ。電車、だいじょうぶなの……遠いいんでしょ?
    げっ、終バスに遅れる!
    いま出れば間に合うわけ?
    ええ、たぶん。新宿に10時半頃までに着ければ……。
    じゃあ、急いだほうがいいよ。あとは払っておくから……。
    いいんですか……?
    もちろん。こっちから誘ったんだし……。
    すみません。どうも、ごちそうさまでした。


    K くん、傘、カサ!


    2008. 11. 24 了


* 当シリーズはフィクションです。とくに、筆者の知る限り、神保町界隈に作中で話されているような料理を出す店は存在いたしません。そうしたメニュー自体、筆者 妄想の産物に他なりませんから……。



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Minr Kamti / 亀谷 稔

Minr Kamti / 亀谷 稔

1961年生まれ。
武蔵野美大卒。
建築プレゼンテーション・調理・知的障害者たちの陶芸制作活動補助、といった職を経た後に、2006年7月より創作活動に専念している微細画家 。2007年1月、銀座 - あかね画廊にて初個展。
今現在('08年4月)の描法は、かつて伐採予定地などで行なっていた舞踏を応用した自動筆記法である。
   著書 『全一の展開
         末端の必然』

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